時は冷戦半ば、西から東へと走る「コメート急行」の車中で、スイスの鉄道会社ハインリッヒ鉄道の三男ムート・ハインリッヒと、東側のトッププリマバレリーナエレナ・ソコノヴァは出会う。ドイツ語で「彗星」を意味するこの列車は、鉄のカーテンの暗闇を切り裂き、人々に自由の光と未来への道を与えるかのように進む。 二人の出会いは、バレエ団がパリでの初公演を披露するための旅路でのことだ。だが、この公演は東側政府が列車を調査するために仕組んだものだった。「政治犯逃亡協力」の噂を調べるため、警察と名乗る軍人たちがバレエ団と共に乗車していた。そのリーダーは、冷徹なミハイル・グリコブ。鉄道会社の責任者であるムートは、彼らを丁重に案内しつつも、列車の「隠された仕掛け」を秘匿するため、軍人たちを「監視」していた。噂通り、この列車はこれまでも密かに逃亡者たちを支援しており、隠し部屋や装置、そして多数の協力者が潜んでいたのだ。 ムートは表向き「見張り役」だが、誰にも明かしていない秘めた感情を抱える。それは、プリマバレリーナのエレナへのファン心だった。10年前、彼は東の小さな町でエレナの踊りを見て、その生命力に魅了されたのだ。当初、エレナはムートを「ややこしい西の男」と警戒していたが、彼の情熱に触れるうち、踊りへの本当の喜びを思い出していく。東西の分断を乗り越え強く引き寄せ合う二人は、たとえ離れ離れになっても、この列車が再び自分たちを巡り合わせると誓い合う。 ムートたちが周到な準備をしていたにもかかわらず、軍人たちの追及は迫る。政治犯アレクサンダーがこの列車に潜伏していると確信する軍人たちは、列車を荒野で停止させようとする。そして、閉ざされたままの「社長室」に誰かがいると主張した。ムートたちと軍人たちが対峙する中、エレナが公演への遅れを訴え停車の阻止を試みるが、ミハイルは社長室のドアを開けるよう要求する。緊迫した状況でムートが銃口を向けられ、まさに撃たれそうになったその時、社長室のドアが開く。そこに現れたのは、先日軍人とトラブルを起こした掃除のおじさん。だが、彼は見違えるほど立派なスーツを身につけていた。ムートの驚きの声で、その人物が鉄道会社の社長であり、ムートの父であるロベルト・ハインリッヒであることが明らかになる。 ロベルトが空っぽの部屋を示したことで、軍人たちは何も言えずにその場を去った。ムートの口から、アレクサンダーが別の列車で無事に国境を越えたことも告げられる。 列車は無事にパリに到着し、バレエ団の公演も期待通りの好評を博した。そして、二人の別れが訪れる。だが、これが最後の別れではないと、二人は信じている。誓い合った通り、この鉄道が再び自分たちを巡り合わせる時が来ると。列車を見送るムートの瞳には、希望の光が満ちていた。
時は冷戦中盤、西から東に渡す「コメート急行」に、東一のバレエ団「ビエタリ歌劇座バレエ団」が乗り込んだーー彼女たちのそばには、警備のための「警察」たちだ。彼らは警察じゃない、と、ビエタリの市民たちにはわかる。なぜかというと、この列車はまえから、「政治犯の逃亡を手伝い」といううわさがあった。特に最近は、東政府の眼中の釘・アレクサンダーを西に逃亡させるという説もあった。
この列車の責任者は、運営会社である「ハインリッヒ鉄道会社」の三男・ムート・ハインリッヒだった。彼は長年にこの線路の手配をやってきて、今回はわざと、バレエ団のために監督しに乗車した。自分がバレエ団のファンで、彼女らを最高の旅を提供するや、この旅が無事にパリへ着けるのを保証すると、彼は出張した。
そして、この列車の安全を「守る」ことも。
噂の通り、この列車は、ずっと逃亡者たちと協力してきた。特に今回関わってるアレクサンダーは、ムート大学時代の同僚だった。彼は、この列車に人を隠すための仕掛けを色々に仕込んだ。乗客たちがあまり気にしない乗務員や技術者たちにも、手伝いさんが何人もいた。
ムートが、一応「見張り役」でもあるが、彼はほかの感情も抱えてる。それは誰も知らない、彼が、バレエ団のプリマ・エレナのファンであることだ。十年前、大学生だった彼は、戦争で行方不明になった兄を探して、東に忍び込んだ。その時戦争もう何年も終わり、当たり前のように、何も見当たらなかった。ムートは兄が消えた小さな町を何回も回って、落ち込んで帰るところ、小さな、ボロボロな劇場で公演を見た。演目がストラヴィンスキー、主役がエレナだった。劇場がまだ戦争の傷跡が残ったにも関わらず、生き生きして踊ってた彼女に、ムートがあらかじめ、「命」そのものを感じた。
彼らの目標は一つ:アレクサンダーみたいな人々を、西に逃亡させる。
ストラヴィンスキーが上演禁止でそれきり、ムートが再びエレナを見たとき、彼女はもうピエタリバレエ団のソロリストだった。ムートは、わざと彼女に知り合おうとしてなかったが、ついて二人が同じ列車を乗った。
しかし、エレナの態度がよほど冷たかった。そもそも彼女が西の人を好むわけでもなく、ムートと初見した際にも、「ややこしい西の男」しか思わなかった。彼女が、鉄道で小さな町からピエタリに行ったことで、こっそり鉄道を憧れているが、西で披露することに対してあまり期待とかなかった。
ある深夜、たまたまバレエ団の稽古用列車に辿り着いたムートが、まだ個人稽古しているエレナと出会った。彼女ははじめて冷たい顔をしたが、ついにムートの話に驚かれた。
「同情なんて、いらないわ」
「まさか。君の踊りを見て、君に同情できる人間なんていない」
と、ムートはあの小さな劇院の公演について語った。
エレナは、複雑な気持ちを抱えるままその場に去った。残されたムートは、思い出に惹かれ、どうしてこの鉄道に心血を注ぐのかを思い出した。
それは、鉄道が人々に未来を与えることだ。